1950人が本棚に入れています
本棚に追加
商品を提供すると客席に歩いていく男性の後ろ姿につい見とれてしまう。
「今日も素敵ですね……」
「ほんと……」
呟いた相沢さんに同意する。
品の良い容姿というだけで印象に残る男性。別に好意を持つというわけではないけれど、つい目を奪われてしまう。
「あんな人絶対彼女いますよねー。彼女が羨ましい」
「相沢さんもいるじゃん、イケメン彼氏が」
「そうですけどー……紳士的じゃないし」
「はいはい、お2人とも私語はだめですよ」
割って入った声はもう1人の後輩である中山瑛太だった。休憩から戻ってきてカウンターの中に入ってきた中山くんは呆れた顔を私と相沢さんに向けた。
「私語はなるべく控えないとまた『お客様からのご意見』がきますよ」
そう言われて気を引き締めた。先日店員の私語が不愉快だとのクレームが本社に入った。先輩である私が中山くんに指摘さればつが悪くて口を噤んでも、クレームを受けた張本人は「ふん」と鼻で笑った。
「はーい、気をつけまーす」
相沢さんは感情のこもらない声で返事をすると調理器具を洗浄し始めた。
今日の閉店までの勤務は相沢さんと中山くんだった。中山くんが休憩から戻ってきたことだし、私はそろそろ上がる準備をしようか。19時の退勤まであと5分しかない。
ダスターを持って店内を巡回しテーブルを拭いて、トイレ掃除をしてから店内に戻ったとき、店中に響く怒鳴り声が耳を劈いた。
「何様だその言い方は!!」
大声を出したのはお客様だと思われる男性がカウンター越しに相沢さんを睨みつけている。
「落ち着いてください……」
最初のコメントを投稿しよう!