【蒸熱】柔らかに芽生えた出会い

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私は相沢さんに笑顔を見せてタイムカードを打刻した。既に退勤予定から30分近くたってしまった。人件費がかさむから時間をオーバーしないようにと煩いのに、私まで店長に小言を言われそうだ。 「お先に失礼します」 残った2人にそう言ってお店から出ようとすると、下げ口であのイケメン男性がトレーを下げるところだった。 「恐れ入ります。ありがとうございました」 私が声をかけると男性は笑顔を見せた。 「大変でしたね。お疲れ様です」 そう声をかけられた。先ほどの騒ぎのことを言われたのだと思い赤面した。店にいたお客様は一連のやり取り全てを知っている。 「あ、いえ……お騒がせして申し訳ありませんでした」 「お気になさらず」 男性は軽く頭を下げるとお店を出て行った。 初めて男性と接客以外の会話をしてしまった。これがもう少し違う状況なら浮かれたかもしれないのに、恥ずかしい状況を見られて落ち込んだ。 今現在バイトリーダーのような立場だけれど、もしこの会社で正社員になったら今以上の責任と苦労がのしかかる。相沢さんのような難しい部下の教育にも重い責任がある。 今のままの立場は居心地がいい。けれどこの先ずっとフリーターでいることは金銭面で不安があった。飲食業の経験しかなく、資格も特技もない。他に目標なんてなく、ただ漠然と生活してきた。不満はないけれど満足もしていない。不安は常に抱えていた。
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