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「遠慮しないでください。実はお願いしたい事があるんです」
「お願いですか?」
「まあ、まずは頼んでください」
男性は貼り付けたような笑顔でテーブルを滑らせるように私にメニューを押し出してくる。戸惑いながらも店員にドリンクバーだけを注文すると男性は自分もドリンクバーを追加した。
「飲み物は何を飲まれますか?」
「あ、自分で行きます」
「いいえ、僕が取ってきますから」
男性は立ち上がろうとした私を制してドリンクを取りにいった。
「申し遅れました。僕は龍峯聡次郎と申します」
戻ってきた男性は私の前にオレンジジュースの入ったコップを置くと名刺を差し出した。
「たつみね……そうじろう……」
名刺の名前を声に出して読んだ。名刺には大手飲料メーカーの社名が印字されている。
「あの、私にどんな御用でしょうか?」
「実は僕の婚約者のふりをしていただきたいんです」
「は?」
「僕の婚約者として親に会っていただきたいんです」
「………」
真顔で告げられた意外な要件に体が固まってしまった。得体の知れない目の前の男性が気味悪く思えてくる。
「突然こんなことを言われても困りますよね。でもこれは是非あなたにお願いしたいんです。もちろんお礼はいたしますので」
どういうことだともっと詳しく話を聞こうとしたとき、龍峯さんの携帯が鳴った。
「ちょっと失礼します」
龍峯さんはカバンからスマートフォンを出し画面を見ると、私に軽く頭を下げ電話に応答した。
「もしもし……ああ、今駅を少し歩いたとこのファミレスにいる……彼女も一緒だ……お前も来てくれ……じゃあな」
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