最終話 しあわせ

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それからしばらくして出版社で契約や出版に関する様々な打ち合わせを行った。 電話をくれた田口さんがそのまま私の担当者になるらしい。 田口さんは今年出版社に入ったそうだ。 たしかに、長い艶やかな黒髪をきっちり1つに纏めて、いかにも新人といった印象。 年齢的には私のほうが1つ上(彼女は大卒らしい)だが、外見だけ見ると私よりもかなり年下に見える。 「いや~でもまさかこんな美人な方が書いておられるとは…恐れ入りました。」 「いや、そんな…」 「小説も勿論素晴らしいですが、美人作家といった形でデビューしたら、もっと売れると思います!」 田口さんは鼻息荒くそう言われたが、内容が女性同士の恋愛を書いていることもあり、本名や顔出しはしないようにしてもらった。 彼女はあからさまに落ち込んだが。 作家名は「ナツ」に決めた。 夏生まれだし、尚子との大切な日も夏だから。 そういえば昔、尚子にも本のことを話してたなぁ。 ふと思い出した。 …本を書いたら一番に読ませてねって、尚子に言われたっけ… キラキラした表情でお願いしてきた尚子の顔を、はっきり覚えている。 そう言われて嬉しかった自分の気持ちも。
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