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「先お風呂入る?」
「うん」
夫は子供みたいに肯いた。いつもなら絶対にご飯から食べるのに、この時期だけは先にお風呂だ。なぜなら夫は花粉症だから。民間療法から薬までありとあらゆることをしてようやく仕事をしているという格好だから、帰ってきたときは痛々しい。目は重たげに半眼だし、鼻は詰まって全く機能をなさないし、声まで弱々しい。
「タオルとか着替えはあるからね」
「うん」
そこで大きなくしゃみをする。
「もっと静かにしないと粘膜に響くよ」
「うん」
いつもはこんなことを言われたらものすごいスピードで憎たらしいことを言う夫だが、この時ばかりはそんな頭も回らなくなるらしい。夫は半ば飛び込むように風呂場へ消えた。私はその間に、ご飯を温める。風呂場から大きなくしゃみが縦続きに聞こえてきた。その後、鼻をかむ音。おいおい、明日の風呂掃除は私の当番なんだぞ。と思いつつ、弱りきった夫にそれを言うのはさすがには憚られる。
しばらくお湯を使う音に混ざってくしゃみと鼻水の音が聞こえていたが、その内静かになった。落ち着いたのかなと思っている内に歌が聞こえてきた。
雨降れ雨降れ
スギとヒノキを叩き落せ
雨降れ雨降れ
大臣雨乞いしろ
一億総雨乞いだ
私は笑いながらご飯を盛る。変な歌。もちろん、夫のオリジナルだ。
雨降れ雨降れ
ざぶざぶざぶざぶ
あーめー
あーめー
ざぶざぶざぶ、ざぶざぶざぶ
課長も一緒に流れろ
お風呂のせいか妙にうまく聞こえる。それがまたおかしい。
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