片恋の痛み

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淡い恋を覚えるより早く、鮮烈なまでの片恋を味わった。 好いたひとは、他人のもの。骨っぽい左の薬指にプラチナを飾って、襟のなかにくちびるの痕を隠した愛妻家。そんな男に初恋を捧げた小娘の末路など、想像に難くない。 なぜ私を見てくれないの、私はこんなに貴方を想っているのに。出逢ったのが遅すぎた?それとも貴方の好みではないのかしら。 嫉妬ばかりが一人前に育っていく。帰路につく後ろ姿を泣きながら眺めたのは数知れず、けれど話しかけた回数は片手の指で足りるほど。 なんで私を見てくれないの?そんなの最初からわかっていたでしょう、ばかなおんな。きっとあの人は、私の存在にさえ気づいていなかった。或いは──興味がなかったのかも。 デスクに飾られた白い二人は、この世総ての幸せを手に入れたような顔で笑っていた。私の涙を知らぬままに、笑っていた。 あぁもう、まったく。恋とは不味いものなのね。美しい思い出になる前に、少女は恋を、どぶに棄ててしまった。そうでもしなきゃ、心が割れてしまいそうだった。 ──それは、とある女が今でも忘れられない、片恋の棘。 ──恋を恐れる女が、運命に出逢う前夜の話。
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