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温泉物語
県立山東高校のグランドに白髪混じりのじじいの声が響く。世間じゃブラック部活がどうだこうだとわめいているが、子供はいつか社会に出るのだ。理知的な指導だけで人間が強くなるわけじゃない。年寄りのやり方と言われても、やかましくやるのが俺のやり方だ。
「どうした声が出てねぇぞ!」
「お~すっ! いち、に、いちに、さんし!」
三十数人のサッカー部員が大声をあげながら、砂のトラックを集団で走って行く。先頭でゴールを駆け抜けた選手が地べたにヘタリ込み愚痴をこぼした。
「練習のやり方が古くないですか。日本代表の選手が、試合の体力は試合で作るって言っていましたよ……」
「じゃぁすぐにゲームの準備をしろ!」
「えぇ~っ」
ガキどもが一斉に軟弱な声をあげる。
「もう少し休ませて下さいよ」
「早く行け、サッカーすらまともにできなくて、一体どんな社会人になるつもりなんだ」
「う~っ」
選手はマネージャの用意したプラスチックのカゴからビブスを抜き取るとグランドに散っていった。
「たく、いちいち手間のかかる奴らだ」
「どうもお久しぶりです」
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