至福のひと時

2/7
前へ
/7ページ
次へ
 ***  最初は巨大な泥団子かと思った。  会社帰り、たまたま通りかかった公園で見つけたそれが、いきなりもぞもぞと動き出したのには驚いた。  よくよく見ると、その正体は小さな子犬。  泥にまみれた体をギュッとまん丸に縮め込んでいる。  昨日は大雨が降っていたから、その辺りのぬかるみにでも体ごと突っ込んでしまったのだろう。  子犬は頭の先から尻尾の先まで泥だらけだった。  それにしてもだ。この寒空の下、いつからここにいるのか。  やはり捨てられてしまったのか……  そんな事を思いながらも、ぼくはくるりと踵を返した。  うちのアパートはペット厳禁。  可哀想だとは思うが、拾ってやる事は叶わない。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加