至福のひと時

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 暫くすると、こびり付いていた泥が桶の底へと落ちだした。  子犬を一度桶から取り出し、その体を洗ってやる。  やはり元の汚れが酷いせいで、なかなか泡立ってくれない。  根気良く洗い直す事五回、ようやくその体は白い泡に包まれた。  泥で白っぽかった毛色は、本来の赤茶けたものへ。  鼻先は黒く、足先と尻尾の先が白。  濡れそぼった子犬はますます小さく見えた。  もう一度桶に湯を張って、再び子犬を入れてやると 「くう」  初めて子犬が声を発した。  うとうとと、何とも気持ち良さげに目を閉じる。  子犬は自らその身を湯の中へと沈め、桶の縁に顎を乗せた。 「良かったなあ。そんなに気持ちいい?」  僕は何だか急に子犬が羨ましくなった。
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