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「今日、お風呂場の電球切れているから」
それが帰宅して最初の母の言葉だった。
服を脱いで風呂場に行く。
窓辺に小さめの置き型照明が一応あったが、いつもよりずっと暗かった。
それでも、石けんもシャンプーの位置もすぐ分かったし、体も問題なく洗えた。
毎日使っている場所だから、文字通り体に染みついていた。
ちゃぽん、と湯船に入った。
いつもより水の音を大きく感じた。
いつもよりも温かく感じた。
いつものお風呂なのに、いつもと違うように感じた。
暗いだけでこんなに変わるのかと、不思議な気持ちになった。
「今日、電球買ってきたからお風呂場明るいよ」
それが翌日、帰宅して最初の母の言葉だった。
お風呂場は温かみのあるオレンジ色の光に包まれていた。
もちろん明るいほうが体も洗いやすいし、便利に決まっている。
でもなぜか、物足りなく感じた。
昨日の、暗いお風呂も悪くないと思った。
もしあの不思議な気持ちをまた感じたくなったら、電気のスイッチを消してお風呂に入ろうと思った。
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