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おばあちゃんはお風呂用のクレヨンで絵を描きながらお話をしてくれた。私は湯船に浸かってそれを聞いていた。時々、私のリクエストを聞いてくれた。怪獣は絶対ピンクとか正義の味方は赤とか。私はおばあちゃんとのお風呂が好きだった。おばあちゃんの話は時々変でどこか能天気な話が好きだった。おばあちゃんの手にかかればお風呂はあっという間に夢に国になる。お姫さまもいるし、魔法使いもいる。不思議な猫や妙に可愛い悪魔もいる。なんだってあった。
おばあちゃんはのぼせるからと、「またあした」をよく使った。私は「またあしたが」来ない日を知らなかった。知ったのは正義の味方と怪獣と妖精が謝りに行ったきり、どうなったかおばあちゃんに永遠に聞けなくなった日でした。おばあちゃんがいないお風呂なんてどうなってしまうのか私は心底怖くて哀しかったのです。
あれから二〇年の月日が経ちました。お風呂はおばあちゃんが亡くなってからひとりで入っていましたが、なんのことはありませんでした。おばあちゃんの描いてきたものが、お風呂場に入った瞬間に全て蘇りました。おばあちゃんは亡くなっても、夢の国はそのままだったのです。
今私は、正義の味方と怪獣と妖精が謝りに行った後の絵本を描いています。もしかしたらデビュー作になるかもしれません。
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