8人が本棚に入れています
本棚に追加
「ねえ結愛、前に聞いて来たあの話だけどさ、ママに内緒で教えようか」
「あの話って、あれ?」
娘の黒目ががきらりと光った。子供の目ってなんて綺麗なんだろうって改めて思ってしまう。
「そう、あの話」
あの話とは、私と嫁の馴れ初めの話のことである。
「うん!」
娘が大きく頷いた。よし喰いついたぞ!
「じゃあ、ママに聞かれない様にお風呂でしようか」
「うん」
再び大きく頷く。
まだ娘は、恥ずかしさよりも子供の好奇心の方が強いようで助かった。
出来ることならずっと子供の心のままでいて欲しいと願いたいところだが、それも拙いんだろうな、やっぱね。
それから小一時間後、 妻が返って来て晩御飯の支度を始めたのを見計らい、私は娘に目で合図を促した。娘はそれに嬉しそうに首を縦に振る。
私が先にお風呂に入って、さて、どこから話そうかと湯船に浸かり構想を練りしていると娘が脱衣所に入って来るのが分かった。
曇りガラス越しに見る娘の動きは身軽できびきびとしており、子供のあどけなさを感じる。それを見るだけで嬉しくなってしまう。ホント我ながら親バカだと感じる。
娘は浴室に入るなり、ニコニコ笑いながら
「早く、教えて」
そう言い、素早く体を流す。そして、私の入っている湯船に体をねじ込ませて来た。親ばかで申し訳ないが、ホント愛くるしい。
湯船も二人で入るにはちょっと狭さを感じるようになったが、これも娘の成長の証。
嬉しくもあり、それが逆にこの大切な時間を少なくさせてしまうのだと思うと複雑な気持ちも感じる。
ともあれ、今日は少しでも彼女の幸せな想い出として残ることを願いながら話すとしようと思う。きっと、想い出になってくれるに違いない!
最初のコメントを投稿しよう!