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桜の下で
1年前のある日、目が覚めるとそこはモノクロの世界だった。
何度目を擦っても、顔を洗っても灰色しか見えない。
その日、僕は色を失った。
原因は結局分からなかった。医者はストレスによるものだと言っていたが、それが真相なのか、一先ずの解決なのかは知る由もない。
色がないだけで僕のライフスタイルは大きく変わっていった。
テレビや映画は見なくなった。
代わりに本や漫画、音楽を楽しむようになった。
一人での外出は控えるようになった。
クローゼットには次第に白や黒の服が増えていった。
ハンデを乗り越えること自体はそれほど辛くなかった。
むしろ、白黒二色だけの世界はある意味で新鮮に感じられ、楽しいとさえ思っていた。
見慣れた風景が初めて来た場所のようで感動すら覚える。
新しい土地に引っ越したとき、そこに住む人からしたら当たり前の店や道路、街路樹までが魅力的に見えるのと同じだ。
色を手放してから初めて涙を流したのは、あの日からふた月ほど経った頃だった。
川沿いの道を歩いていると、柔らかい花の香りに気付いた。
ふと顔を上げると白い花弁が頭上に覆い被さるように広がっていた。見覚えがある。
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