桜の下で

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とても好ましい印象だ。それは淡いピンク色、文字通り桜色に見えるはずの光景だった。 家族も桜が好きだったので、物心ついた頃には、お花見は絶対という不文律の下に生活していた。 今でも、いや、正確には去年までは毎年あらゆる名所でお花見をしていたので、僕はある意味日本人らしい日本人だと言えるだろう。 今まで見てきた桜のなかでも特にこの場所、家から近い川原の桜並木は、川を挟んで1kmほどに見事な桜が立ち並ぶ個人的な名所だ。一年で一番と言っていいほどの楽しみになっていた。 毎年スマホの写真フォルダの整理に追われていたので、今年あたりから桜写真専用のクラウドを導入しようかと思っていたところだ。 今思えば、家族や友人は僕を気遣ってその頃お花見の話を出さなかったのだろう。 「今年も、楽しみにしていたんだけどなあ。」 桜を見上げて、必死に記憶の中の色をかき集める。 瞬きの間の一瞬だけ、鮮やかな桜色が蘇る。 大好きだった景色を思い出すほどに、目の前のモノクロの現実が浮き彫りになる。 気づけば頬が濡れていた。 このくらいのハンデなど簡単に乗り越えてやろうと意気込んでいたのに、むしろ楽しんでやろうとすら思っていたのに。 見飽きるほどに見た、ただの桜を見ただけで涙を流している自分が可笑しく思えてきた。     
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