壱 あの頃

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私には三つ年の離れた従兄がいる。 私はその従兄のことを、愛称を込め“あおいちゃん”と呼び、あおいちゃんは私のことを、普通に“とおる”と名前で呼んだ。 私たちは夏の間だけ時間を共にし、共に成長した。 そんなあおいちゃんと仲良くなったのは、私がまだ小学校に入ったばかりの頃で、ある事件がきっかけだった。 私の両親は仕事が忙しく、必然的に私は休日を一人で過ごすことが多かった。 それを不憫に思った父が、夏休みの間だけ、私を田舎にある叔父の家に預けるようになったのです。 叔父さんの家は古い木造の二階建てで、家の中はとても広く、家の前には見渡す限りの田んぼと山が広がっていた。 産まれてからずっと街のアパートで育った私にとって、それだけで心を奪う材料には充分だった。 心なしか、聞き慣れたハズのセミの鳴き声もどこか違って聞こえた。 コレが“本場”とでも言っている様だ。 まだ小さかった私は、玄関先で出迎えてくれた初対面の叔父と叔母にも、容赦なく“こんにちわー!”と元気な挨拶をしたのを今でも覚えている。 昔から元気とバカだけが取り柄だったのだ。 叔父さんは“大きくなったな”と言って私の頭を撫でてくれた。
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