壱 あの頃

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私が覚えていないだけで、どうやらこれが初対面ではなかったらしい。 叔父とは私の父の兄のことで、この家は父さんと叔父さんが小さい頃に過ごした家でもあるのだ。私を夏の間だけ預かるって話も“無駄に広い家だから”と言って歓迎してくれたのだという。 私の両親と叔父さん達がいつまでも玄関の前でお堅い挨拶を交わしているのを背中に、私は木でできた、見るからに古い廊下に視線を奪われ、誘われるがまま家の中を歩き回た。 歩く度に“きしきし”と小さな音を立てる廊下は、今でも変わらないままだ。 私がぐるぐると家の中を探検していると、庭の見渡せる少し広い部屋に辿り着きました。 そして、私はそこであおいちゃんと会いました。 私より少し年上であろうその少年は、半分だけ開いた大きな窓に寄りかかり、腕を組んで静かに眠っていた。 窓の隙間からは少しの風が入り込み、眠っているあおいちゃんの髪の毛と白いカーテンをチラチラと揺らしている。 それを見るなり、私の興味は広い家からあおいちゃんに変わってしまった。 気がつくと、私はあおいちゃんの目の前に腰を下ろし、寝顔をじーっ”と見つめてしまっていた。 しばらくして視線を感じたのか、あおいちゃんがゆっくりと目を開く。 彼は私を見ると一瞬の沈黙の後に“うわっ”っと驚く。 そんな驚く彼に私は“こんにちは!”と、容赦のない挨拶を投げた。 それに対して彼は、少し戸惑いながらも“こんにちは”と返した。 「私はとおる!」 あおいちゃんは何かを理解した様な顔を浮かべ「とおる?そうか、叔父さんとこのろのチビか」と呟いた。 「そうだよ!何で私の名前知ってるの?あなたこの家の人?」 「は?お前オレのこと忘れたのかよ」 あおいちゃんは少しムッとする。 どうやら、彼も私とは初対面じゃなかった様だ。 でも私にとってはコレが初対面だった。 「えへへっ、ごめんね。じゃああなたの名前は?」 「本当に忘れたのかよ」 「うん!」 二人の間に一瞬の沈黙が走った。 しばらくの沈黙の後、彼が小声で何かを呟いた。声が小さく、よく聞き取れなかった。 私が反射的に“え?”と聞き返すと、彼は眉間にしわを寄せ「べつに」と答えた。 「べつに?変な名前」 「ちげーよ!そんな名前なわけねーだろ!」
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