第二章

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「宇宙には、果てがあると思う?」 最初に比べるとかなり緊張がほぐれてきた頃、そう問いかけたのは圭介だ。 「宇宙の果て? それはビッグバン宇宙論でいう観測可能な宇宙の先がどうなっているかってこと?」  祐一郎が思ったことを単純に尋ねると、圭介から驚いた顔を返される。 「え……?」 ――何かおかしかった……? まじめな宇宙談義だと思い、返した言葉だったが、圭介の表情を見る限り、またやらかしてしまったようだ。 ――理学部の僕に英文科の女子大生なんて、やっぱり荷が重すぎるんだ……。 まだ解き明かされていない宇宙の謎に、天文学的観点で見解を聞かれていると思い、咄嗟に口から出てしまった。華やか女子を演じるつもりが、これでは地層好きが高じて宇宙の知識も齧った理系女子だ。完全に自分の思い描いていた方向とは別の方にいってしまい、項垂れる。自信を失った祐一郎がそれ以上は何も言えずに口を噤んでいると、真っ先に口を開いたのは圭介だった。 「祐子ちゃんも、宇宙好き?」 変わらず優しげな表情をむけてくる。ところどころちぐはぐな言動に、緊張して時々どもってしまう声。変な子だとは思わなかったのだろうか。 「えっと……、人並み程度には……」 「……っふ。はははっ……。面白いね。その質問返してくるって、人並み以上だよ」 もうどうにでもなれ、と投げやりに返した言葉に、圭介は吹き出した。まさか笑われるとは思わず、圭介の表情を窺い見る。端正な顔立ちの好青年はくしゃっと表情を崩し、笑っていた。人懐っこそうなその表情に、祐一郎は見惚れてしまう。 「……いえ、あの……その……」 ――ドキドキする……。 頬が熱い。圭介に反応を面白がられ、笑われたことに羞恥を感じたわけではない。圭介の笑顔に、祐一郎の頬はなぜか赤くなった。 「まさかこんなところでこんな宇宙談義ができるとは……。実はさ、昨日授業でこの話を聞いたんだ」 熱くなった頬を両手で押さえていた祐一郎は、圭介の発言に驚いてパッと顔を上げる。 「えっ……」 過剰に驚く祐一郎を気にすることなく、圭介は続けた。 「俺は政治経済学部だけど、理学部の授業は興味あるものが多くて、いくつか履修してるんだ。今の話も、宇宙物理学概論って授業でちょうど『宇宙の果て』の話をしていて、つい披露したくなっちゃった。まさか祐子ちゃんから、そんな質問返しされると思わなかったけど」 あはは、と圭介が少年のような無邪気な笑顔を見せる。 「そうなんだ」と、どうにか返したものの、祐一郎は固まっていた。 ――その授業、僕も取ってるよ……!
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