第五章

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まずは、エントランスから一番近い生命の館へ向かった。生命の誕生から地球の歴史を綴った展示を、二人でゆっくり見ながら進んでいく。時折、他愛もない話で盛り上がる。そして、時には互いが気になる展示で足を止めて見学をする。 ――楽しいな……。 一人で自由気ままに見るのも楽しいが、こうして誰かと展示について話しながら回るのは祐一郎にとって新鮮だった。宇宙についての展示をしている館にうつると、圭介の瞳はきらきらと子供のように輝いた。 ――本当に宇宙が好きなんだ……。 そして今日の一番の目的地であるプラネタリウムに着き、二人並んで映画館のような座席に腰掛ける。関東でも最大規模を誇る七都科学館のプラネタリウムは、この春に改装し、最新鋭の機材を取り入れたさまざまな新プログラムを上演できるようになったと話題のスポットだ。先週の宇宙物理学概論で、教授がちょうどその話をしていて、いつか行ってみようと思っていた。おそらく圭介も、教授の話を聞いて、行こうと思い立ったに違いない。電話で話を振られた時、「行ってみたい」とつい何も考えずに答えてしまったのだ。それが、今回七都科学館に来ることになった経緯だ。 ――まさか一緒に行こうって言われると思わなかったんだよ……。 隣で人工的な夜空を見上げる圭介の横顔を、そっと見つめる。楽しそうな横顔に、祐一郎は胸が熱くなるのを感じた。 ――圭介くんが嬉しそうだと、僕も嬉しい。 誘われてからは悩みに悩んだが、一緒に来られて良かったと、心が温かくなる。上映は、50分ほどで終わった。季節ごとの星座図解説から、星を廻る神話、『宇宙の始まりから未来へ』をテーマに、宇宙についての研究成果と、後世に残る発見をしてきた科学者たちの歴史を紐解く、濃厚な内容だった。「面白かったね」と声を掛けると、圭介も嬉しそうに「そうだね」と返してくれる。その後は、まだ見ていない展示室から見学を再開した。
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