第五章

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次の部屋は、「日本の隕石」「世界の隕石」と銘打たれ、日本地図、世界地図と共に多くの隕石が展示してあるエリアだ。全国で時折開催されている石の展示即売会ではお目にかかることができないような巨大な隕石の展示に、心が躍る。中でも一際目を引くのは、部屋の中央に飾られたパラサイト隕石だ。 パラサイト隕石は石鉄隕石に分類される希少価値の高い隕石で、ニッケル鉄の中に、丸みのある粗粒状の橄欖石かんらんせきが混じっている。橄欖石は、宝石ペリドットの原石だ。透明度が高く、光を通すため、光を当てると黄緑色や緑色の石の美しさがより一層際立つ。銀色の鉄の中に、黄緑色透明な橄欖石が散在しているその様子は、宝石が散りばめられたようで美しい。展示品は綺麗に表面を研磨され、光が当てられ、きらきらと光り輝いていた。宇宙で生成された宝石、というロマンに想いを馳せると、いくら見ていても飽きない。 もっとじっくり眺めていたくて、祐一郎はパラサイト隕石と向かい合うように設置された楕円型のロビーベンチに腰掛けた。しばらくすると、同室の他の展示を見ていた圭介も祐一郎の隣に座る。何もしゃべらず、ただぼんやりとパラサイト隕石を見ていると、圭介がぽつりと独り言のように語りだした。 「昔……小学生の頃だったかな。父親に連れられて宇宙についての展示を見に行ったことがあるんだ。七都科学館ほど立派な科学館じゃなくて、地元の科学館で夏休みに特別展示をやっててさ。元宇宙飛行士が来て、小学生向けの講演会もあったりして、すごく楽しかった」 今と同じように、きらきらした目で展示を見つめる圭介少年を想像し、祐一郎の口元は緩んだ。 「その時、父親が、帰り際に展示の横にあった物販スペースで、小さな隕石を買ってくれたんだ。こんな綺麗なパラサイト隕石じゃなくて、コンドライトだったけど。これが宇宙から落ちてきたんだって考えたらすごく興奮して、大事に……、お守りみたいにして持ってた」 「……それって」 「うん、祐子ちゃんにあげた、お守り」
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