第五章

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ずっと聞きたかった、コンドライトの話に、祐一郎は緊張し始める。圭介の紡ぐ言葉を、一言も逃すまいと、そっと圭介の方を見遣った。圭介は凪いだ表情で目の前のパラサイト隕石を眺めていた。 「俺さ……小さい頃、宇宙飛行士になりたかったんだ。その講演会で話をしてた元宇宙飛行士の人に憧れて、その人がE大卒だったから、将来はE大に入ろうって心に決めてた。安直だよな」 呟くように話す圭介が、言葉尻で笑う。E大卒の宇宙飛行士のことは、祐一郎ももちろん知っていた。祐一郎と同じ理学部で、彼は化学科卒だったはずだ。 「でも、圭介くんは……」 疑問に思ったことを口にしようとして、察した圭介が続ける。 「うん。なんで理学部に行かなかったのか、って思うよな」 パラサイト隕石を見ながら話していた圭介が、祐一郎の方を向く。少し、寂しそうな表情をしていた。 「俺の家、会社をやってるんだ。創業したのは祖父で、社長は俺の父親。いわゆる同族経営ってやつ」 また隕石の方に向き直った圭介の話を、祐一郎は静かに聞いていた。 「中学の頃かな、父親は、将来俺に会社に入って欲しいんだろうなって気付き始めた。父親のことは尊敬してるし、期待されるのは嫌じゃなかった、期待に応えたいって気持ちもあったんだ。でもその選択をしたら、俺の夢の実現は難しくなる」 「…………」 祐一郎も、興味本位で宇宙飛行士の募集要項を見たことがある。大学卒業以上で、自然科学系、つまりは理学部や工学部、医学部、農学部などを専攻していること、そしてそれら分野における研究、設計、開発、製造、運用等の実務経験を有することあったはずだ。
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