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館内を大きくぐるりと一周し、朝入ってきたエントランスに戻ってきた。これで、ざっと一通りの展示を見たはずだ。
博物館をあとにする前に、出口へと向かう途中あるミュージアムショップへ立ち寄った。元素記号を使ったデザインやフラクタル柄のファイルやノート、マスキングテープなどの文房具に、星座が描かれたトートバッグやマグカップ、自由研究に使えそうなキットや書籍も並んでいて、科学館らしいラインナップだ。買う気もなくふらふらと歩いていると、宇宙食や、ミュージアム限定のクッキー、フィナンシェなどが並ぶコーナーで、目についたものがあった。手のひらサイズの正方形の缶に、星座図が描かれたキャンディー缶。中身は同じだが、柄は夏の星座図と冬の星座図の二種類がある。
――これ……、絶対ちょうど良い!
手に取って、形を確かめるようにくるくる回して見ていると圭介が近づいてきた。
「買うの?」
「あ、うん、ちょっと行ってくるね」
「それ、俺が買ってくるよ。今日、車出してくれたお礼ってことで」
「えっ……でも、さっきもお昼をご馳走になったのに……」
同じようにお礼だと言って、館内で食べた昼食代は圭介が払ってくれたのだ。
「何かプレゼントしたいんだ」
そう言うと、祐一郎の手からすっと商品を抜き取り、圭介はさっさと会計を済ませてしまった。会計後の紙袋に入ったキャンディー缶を手渡される。
「あ……ありがとう」
申し訳ないと思いつつも、圭介からのプレゼントは素直に嬉しい。普段、祐一郎でいる時は緩慢な表情筋も、祐子でいると自然と顔が綻んだ。
「どういたしまして。冬の星座図の缶だね」
「うん……、あの、これを……入れようと思って」
今買ってもらったばかりのキャンディー缶を袋から取り出すと、中身を取り出して空っぽにする。そこに、ポケットに入れていたコンドライトのお守りをそっと入れた。
「あ……!」
「良かった。ぴったりだ」
渡された時から入っている袋では、万が一落としてしまった時に石を傷つけかねない。ようやく見つけたコンドライトにぴったりの缶。冬の星座図にしたのは、圭介と出会った日が冬だったから、という安直な理由だ。このコンドライトには、大学受験の日に手放した圭介のさまざまな気持ちが、たくさん詰まっている。それも一緒に、缶の中に入れられたような気がした。
「これは、これからもずっと大事にしていくから……」
真剣な表情で決意を表明する祐一郎に、圭介は優しく微笑んだ。
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