第五章

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圭介からの次の誘いは、それから数日後、本当にすぐやってきた。迷った末に断った祐一郎だったが、またすぐに違う日程で会おうと誘われ、つい承諾してしまった。 それ以来、映画に食事、水族館、科学館に博物館、二人で様々な所に行った。これで終わり、今日で最後だと心に決めているのに、楽しくて会いたくて、誘いを断ることができない。会えば会うほど、圭介に惹かれていく。 ――今だけ、今だけだから……。 圭介が祐子に対し、どんな感情を持っているのか、祐一郎には想像もつかない。少なくとも、月に数回二人で出掛け、毎日のようにメッセージのやり取りをしているということは、それなりに好きでいてくれているのだろう。しかしそれは、異性として見ているのか、気の合う友人として見ているのかまでは、わからなかった。 ――ずっと、このままの二人の関係でいられたらいいのに……。 人との付き合いは、地層のように時間の積み重ねで出来上がっていく。祐子という人間が過ごした圭介との時間は、祐子のものだ。女の子になりたいわけじゃない。それなのにときどきちくりと胸を刺す痛みは、別人の自分に嫉妬する無駄な思考。友情では片付けられない感情と胸の高鳴り、いつしか圭介から離れなければならない現実と、騙しつづけている事実、その全てに、祐一郎は目を瞑っていた。
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