第六章

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「ごめんなさい……、ありがとう」 急いで離れたが、心臓は激しく動き始める。 「下駄だと、歩きにくいよな」 普通に会話をする圭介に、祐一郎は顔を上げられず、俯きながら答えた。 「う……、うん……」 「もう少し人の少ない所まで歩こうか」 圭介は祐一郎の手を掴んで歩き始めた。 ――え!? 手……! 手が……! 圭介の手が、祐一郎の手に重ねられる。 「また、はぐれると困るから」 圭介がこちらを見ずに早口で呟いた。そっと見上げた横顔は、心なしか赤くなっている気がした。途中、キッチンカーや屋台が並ぶエリアに立ち寄った。唐揚げや焼きそば、たこ焼きなどいくつかつまめるものを買っていく。 「何飲む? お酒もあるみたいだけど」 ドリンクを販売する屋台の前で圭介に尋ねられ、祐一郎は烏龍茶を選択した。 「じゃあ、俺もソフトドリンクにしよう」と言うので、祐一郎は慌てて言葉を返した。 「あの、私、お酒は飲むとすぐ具合が悪くなるから苦手で……。だから、その、気にせず圭介くんの好きなものを頼んでください」 慌てふためきながら必死に話す祐一郎がおかしかったのか、圭介は、「わかった」と答えながら笑っていた。ペットボトルの烏龍茶と缶チューハイを買うと、再び手を繋いで混んだ道を歩いた。 メイン会場から離れ、人が減ってきたエリアにちょうど空いているベンチを発見し、並んで腰掛ける。繋いでいた手は自然と離れていった。緊張から開放され、安堵しつつも、ずっと繋いでいたかったという感情に、祐一郎は戸惑った。買ったものをつまみながら、花火の開始時刻を待つ。日没も過ぎ、辺りは徐々に暗くなってきている。
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