第六章

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「もうすぐだね」 先ほどまでは空いていたこのエリアも、今はレジャーシートと人で埋まっている。ほどなくして、花火が打ち上がり始めた。ドンッドンッという大きな音が辺り一帯に広がる。「きれい……」と、自然に漏れた声に、「そうだね」横に座る圭介が答えた。 誰かとこんな風に花火を見るのは初めてだ。夏の夜空にたくさんの花が咲いたように、きらきらと輝く花弁が舞っている。最後は、これでもかと言うほどたくさんの花火が連続して打ち上がり、一時間ほどで打ち上げは終了した。しばらくして夜空の煙が霧散すると、少しずつ星が見えてきた。県境を流れる大きな川は、真っ暗で何も見えないが、対岸に立ち並ぶビルや家々の灯りが無数に広がっていて、ぼんやりと空も明るい。大勢の人が帰り支度を始め、行列をなして駅へと進む中、祐一郎と圭介はベンチに座って夜空を眺めていた。光輝く一等星や二等星は都会でもその姿をこの目で捉えることができ、夏の星座を夜空に描いた。 「満天の星空が見たいな……」 ぼそりと呟いた圭介に、祐一郎も空を見上げながら答えた。 「いいね。行くなら山かな。登山して山小屋に一泊してもいいよね」 「え……」 驚いた圭介と目が合って、祐一郎は答えを間違えたことを悟った。 「あ……」 ――祐子として話をしているのに、男友達と一泊星空観測旅行に出かける気持ちで答えてしまった……。 「うん、いいね。一緒に行きたい」 そう答えた圭介の声と笑顔が蕩けそうに甘く、さらに恥ずかしくなって俯いた。火照り出した顔をごまかすように扇子で仰ぐ。
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