第七章

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第七章

無気力に過ごした夏休みはあっという間に終わり、大学生活は2年生の後期に入った。履修科目選択の期間が過ぎて本格的に授業が始まると、新学期の浮ついた雰囲気はすっかり鳴りを潜め、学内にはいつもの落ち着きが戻ってきた。 金曜日の今日は、前期から通年の授業である宇宙物理学概論が4限にあった。もちろん圭介も履修していて、授業のたびにその後ろ姿を探そうと、祐一郎はいつも後方の席に座っていた。もう、前期のように変装用の眼鏡はかけていない。 ――見つかるはずない。それに、見つかったところで、知り合いでも何でもない僕は声なんてかけられない……。 今日も相変わらず、圭介の背中を眺めながら授業を聞いた。授業が終わると、速やかに教室を後にする圭介の背中を見送った。圭介が今何をしているのか、気にならない日はなかった。どうすることもできないこの気持ちは、時間が経つにつれて忘れられるのだろうか。 前期の金曜日は4限の宇宙物理学概論で終わりだったが、後期は5限まで授業を取っている。次の授業に行くためぼんやり歩いていると「日野!」と呼ぶ声が聞えた。振り返ると、同じ地質科学科の広瀬将が、ぽよんとしたお腹を揺らしてこちらに歩いてくるところだった。広瀬も宇宙物理学概論を取っているので、教室のどこかに座っていたはずだ。圭介のことはすぐに見つけられるのに、広瀬がどこに座っていたのかはわからなかった。 祐一郎に追いついた広瀬と共に、次の授業の教室へと向かう。 「そういえばさ、来週末のE大祭で、俺が所属してる化石鉱物同好会も出店するんだけど……」 広瀬と仲良くなった理由の一つに、同じ鉱物好きという共通点があった。しかし広瀬が特に好きなのは鉱物より化石で、同じジャンルだが少し系統が異なる。一年生の四月、一緒に同好会に入ろうと誘われたが、元来の人見知りが発動し断ったのだ。 「日野に、お願いがあって……」 「何?」 「E大祭の出店、手伝って欲しいんだ。日曜の一日だけ。土曜とその他の準備、片付けは大丈夫だから」 「……具体的に何をやるの?」 普段、付き合いの悪い祐一郎を知っている広瀬が、わざわざお願いしてくるということは、何かあるのだろう。いつもならすぐに断る祐一郎も、何となく無下に断れず、詳細を尋ねた。
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