第七章

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毎年、E大祭は11月中旬の土日で行われる。準備日と片付け日で、その前後の金曜と月曜は全日休講だ。日曜朝8時、広瀬から言われた時間通りに、カフェの出店場所となる西6号棟の3階にある教室へ向かった。 入口には『化石鉱物カフェ』の看板が立ち、40名ほどが入れる一般的な教室は、机とイスを使ってすっかりカフェの装いになっていた。教室内を囲うように配置された机と壁には、化石や鉱物が解説と共に展示され、黒板にはカフェのメニューが書いてある。大学近くの洋菓子店から仕入れたという洋菓子は、宝石のように色鮮やかな発色のチョコレートや、ダイヤモンドの形にアイシングされた可愛らしいクッキーなど、手が込んでいた。 すでに何人か同好会のメンバーが着ていて、準備を進めていた。同好会には、主に理学部の学生が多く所属しているというが、理学部ではほとんど見かけない女子の姿もあった。 ――あれ……? すでにカフェ用の格好に着替えているのか、女性陣は白いシャツに黒いベスト、襟元には蝶ネクタイを付け、黒いギャルソンエプロンを身に着けている。そして、裏方から出てきた男性陣の姿に、祐一郎は目を疑った。猛々しい男達数人が、黒を基調としたシックなメイド服にふりふりの白いエプロンを身に着け、極め付けは黒のニーハイソックスを履いていたのだ。 「え…………」 絶句している祐一郎に、広瀬がへの字の眉で申し訳なさそうに迫ってきた。 「騙したみたいで本当にごめん! 数日前、部長の判断でこんなことに……」 準備を進めている中で、普通にカフェをやるだけでは面白くないと、ギャルソンとメイドの格好で接客をしよう、せっかくなら男女入れ替えようという話になったらしい。 「広瀬くん、お手伝い頼んだくれた友達ってこの子?」 気が付けば、いつの間にか、女子大生三人からにじり寄られていた。 「えーっ! かわいい! 絶対似合うよ!」 「一番小さいサイズで大丈夫そうだよね? ちょっと持ってくる!」 女性陣に囲まれ、ぎゃあぎゃあと騒がれた挙句、メイド服を手渡され、着替えて来て、と指示を受ける。あまりのスピードに言葉を発することもできず、祐一郎はメイド服を手にカフェの裏方へ入った。積み上げた机に暗幕を掛け、仕切られた裏方スペースは、お茶を用意するための場所とは別に、更衣室としてパネルで仕切られた場所がある。
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