第七章

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「広瀬も、これ着るの……?」 一緒に更衣室に入った広瀬に、どうにか頭を動かして質問をする。ほっとしたような表情を浮かべる広瀬は「俺は、これ」と言って、大きな熊の着ぐるみを指さした。 「これで学内を回って宣伝」 午前中は他の先輩が着ぐるみを着るそうで、まだ着替える必要のない広瀬が更衣室から出ていくと、祐一郎は仕方なくメイド服に着替えた。足にすうすうと風が入る久しぶりに感覚に、祐一郎は懐かしくなって、胸がちくりと痛くなった。着替え終わって表に出ると、先ほどの男性陣は女性陣にメイクを施されているところだった。その並びに祐一郎も加えられ、順に化粧をされていく。最後に黒髪ロングのウィッグを被せられ、その上に白いひらひらのカチューシャを乗せられた。 「日野くん、めちゃくちゃ可愛いよ」 「うわ、本当だ」 「ちょっと、写真撮っていい?」 またもや女性陣にもみくちゃにされ、隣の男性陣からは絶句され、祐一郎は委縮しきりだった。衣装の準備が落ち着いたところで、今日の仕事内容を聞かされる。祐一郎は、午前中に接客、休憩を挟んで午後は広瀬と共に学内を歩いて宣伝用のビラ配り、またカフェに戻ってきて接客が一日の主な流れとなった。 10時のE大祭開催時間と共に、午前中からぽつぽつと来客があった。メイド服の男性陣に驚きつつも、喫茶内に展示された鉱物や化石を見て、お茶を飲んでいく人が増えていく。主に裏方でコーヒーや紅茶の用意をしていた広瀬も、 午後には着ぐるみに着替え、看板を持って祐一郎と共に外に出た。快晴で雲一つない秋晴れの天気だったが、さすがに半袖のメイド服で外に出るのは寒い。メイド服の上に、大学のロゴが入ったパーカーと、さらに祐一郎が着てきた薄手のダウンを羽織っている。そのため、上半身は温かかったが、膝上丈のふんわりとしたスカートにニ―ハイだけの下半身は寒かった。万が一、圭介に会ったらどうしよう、という不安はあったが、他にも目立つ格好で練り歩く学生がたくさんにいる。人でごった返した学内では、すれ違ったとしても気付かれないだろう。学内の至ることころに、同好会や部活動主催の出店が出ていて、メインステージではお笑い芸人を呼んでライブをしていたり、体育館では社交ダンスサークルによるショーが行われていたりと、とにかく賑やかだ。
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