第八章

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圭介とそんな会話をした数日後、観測会に一緒に行く予定だった広瀬からのメッセージに、祐一郎は目を疑った。 『インフルエンザ発病。今日から一週間休みます。観測会も、不参加確定。あと、すっかり言い忘れてた。日野がE大祭でぶつかった人に会えた? 落し物拾ったから渡したいって言われたんだ。許可なく連絡先教えるのはまずいから日野に確認するって言ったら、直接会いに行くっていうから、日野の名前と学部と取ってる授業いくつか教えちゃった。会えたかな?』 「…………っ」 ――これって……。 圭介のことだ。そして、落とし物の心当たりは一つしかない。ただ拾っただけなら、大学の事務局に拾得物として届ければいい。そうしなかったのは、拾ったものが、自分があげたコンドライトのお守りだったからかもしれない。二人で行った、七都科学館。そこで買ったキャンディー缶に入ったコンドライト。「日野」と呼ばれた人物が、それを落としていった。 ――僕が祐子だって、わかってたんだ……。 圭介は、祐子に振られた数か月後、祐子だと思った人物にぶつかった。しかし彼女は、日野と呼ばれていたこと、そしてコンドライトを落としていったこと。そんな事実を突然突きつけられて、どう感じただろうか。 ――僕なら……、裏切られたって悲しくなる。頭にくるし、人間不信になる。 好きだった気持ちは……。消える。消えるはずだ。異性だと思っていた相手が同性だったのだ。抱いてしまった想いは、そもそも間違いなのだから。そんな相手に、大事にしていたコンドライトを戻す必要はない、そう考えているのかもしれない。――僕は、ばかだ……。軽蔑されても、気持ち悪がられても、たとえばそれで「もう俺とは関わるな」と言われたとしても、早く事情を話し、これまでのことを謝罪するべきだったのだ。 ――観測会が終わったら……その時に……。 小松教授の授業を楽しみにしている圭介なら、きっと、観測会も参加するはずだ。そこで、洗いざらい全てを話そう。行き止まりで進むことができない関係、いい思い出だけで残そうとした自分勝手な気持ち。その全てを清算しなければならない。
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