第八章

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そしてまた、金曜日の4限が巡ってくる。祐一郎は、いつものように早めに教室につくと、いつものように、後方の席に座った。 ――いち……にい……さん……しい……。 今日もまた圭介が隣の席にくるだろうか。そう考えるだけで落ち着かなくなり、最近は席に着くと無心で数を数えるようにしている。 ――ひゃくにじゅういち……ひゃく……。 「……っ」 どさっと荷物が置かれる音に、びくりと体が揺れてしまう。見なくてもわかる。圭介だ。それでも、そっと横目で確認したくて視線をむけると、ばっちり目が合ってしまった。軽く会釈をされ、祐一郎は固まった。視線が少し絡み合うだけで、頬が熱くなる。 ――ばれたら、気持ち悪がられる……。 悟られないように俯きながら正面を向くと、手元のノートを見るように項垂れた。圭介に会うのは、先週、泣き顔を見られて以来だ。恥ずかしさと、緊張が溢れてきて、いつも以上に体が強張る。圭介の存在を間近に感じながら九十分の授業が終わり、疲労感に包まれながら荷物を片付けていると、「これ行くの?」という声が隣から聞こえた。 「え!?」 まさか自分に話しかけられているとは思わず、勢いよく隣に振り向いた。圭介は、今日授業で配られたプリントを指差していた。 「う……うん、行くつもり……です」 質問の意図がわからないまま、ただ正直に頷く。宇宙物理学概論では、クリスマス観測会と呼ばれる特別授業がある。参加は単位に関係なく自由で、教授がクリスマスイヴに予定のない学生たちに楽しんでもらおう、という慈悲深い名目で開催される毎年恒例の行事だ。教授による冬の星座特別講義に加え、理学部の研究棟の屋上で天体観測をする。教授が顧問をしている天文部の面々が準備をしてくれるらしく、温かい飲み物や、アルコール、軽食やつまみも用意され、和気藹々とした観測会らしい。圭介は、「そっか……」と呟いたあと「それじゃあ」と言って席を立ち、颯爽と教室を出て行った。取り残された祐一郎は、茫然とその背中を見送った。
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