花唱

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花唱

 私は雑踏の中に立ちながら、じわじわと自分が死んだことを自覚し始めていました。  つい先ほどまで、家のベッドで寝ていたはずの私は、なぜかウオール通りの商店街に立っていたのです。長い間痰が詰まって苦しかった喉は、驚くほど爽やかで、持ち上げるのも億劫になほど重く感じられた手は、羽が生えたように軽く動きました。  私は辺りを見渡しました。青物屋が、客を呼び込むために大きな声を張り上げ、洋服屋は、きれいな布地を店先いっぱいに広げていました。  それらは、私が幼い頃、母と買い物に出たときに見た光景と少しも変わっていなかったのですが、一つだけ違うことがありました。どの人も、私のことを見ないのです。  私は死んだのだから、霊体になって、きっと誰の目にも映らないのだろう。一人でそう納得して、空を見上げました。ピンと張られた布地のような青が、所狭しと建てられた店の屋根の隙間を埋めるようにして広がっていました。  はて、人は死ぬと、すぐに天に昇るはずではなかったのか。     
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