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プロローグ
目が覚めたら、泣いていた。
夢を見ていたような気もするが、意識が覚醒するのと同時にその記憶はどこか遠くへ行ってしまった。
とても・・・大切な人がいたような気がする。
とても・・・逢いたい人が、いるような気がする。
忘れたくない・・・大切なものがあったような気がする。
でもその感情はどれもそんな気がするだけで、現実とリンクしない。
ベッドから出て、部屋のカーテンを開けると、朝の陽ざしが一気に差し込む。
窓際の一番明るいところに置かれた小さな植木鉢。
挿し木によって根を張ったその鉢がどうしてここにあるのか、いったい何の植物の枝なのかも私は知らない。
いつからここにあるのか、それも知らない。
もしかしたら『知らない』という表現は違うのかもしれない。ただ、私の中にその答えはみつからない。
それでも、その鉢を両手で持つと、たまらなく愛おしい気持ちが溢れ涙がでる。
ひとつだけ確信めいてわかることがある。
私の胸の中にぽっかりと開いた穴。すべての答えはそこにあるのだと・・・。
私の中の消えた大切なもの。
それがなんだったのか、どうして消えてしまったのか。
全ては、この挿し木された植木が知っているのだろう。
私は小さな植木を胸に抱き、思い出せない大切なものを想い泣いた。
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