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スマホは家に置いてきた。
着信に怯えることもない。
電車の心地よい揺れに包まれながら、まどろみの中に意識をあずける。
__ちょっと、疲れちゃったな・・・
__少しだけ、休もう。
__そして元気になったら、また進めばいい・・・
私の錆びついた心は、全身を毒のように貫いた。
***
「お客さん、お客さん、起きてください。終点です」
車掌の声で目を覚ました。
「あっ、すみませんっ」
軽く頭を下げて、慌てて電車から降りた。
他の乗客はとうに降りていたようでホームには誰もいない。
__ここはどこだろう・・・
嗅ぎなれない匂いが立ち込める。
木々や土の匂いなのか、それとも違う何かなのか。
都会には存在しない匂いだ。
ホームの階段を降りると改札へ向かい、駅員へと尋ねた。
「あの、ここから東京とは逆の方向に行きたいのですが・・・」
曖昧な聞き方に、駅員が顔をしかめる。
「お客さん、目的地は?」
「えっと、私行き先を決めずに旅をしてるんです。だから、あの、目的とか・・・そういうのは特にないんですけど・・・」
旅と言い切った割には、荷物は小さなバックがひとつだけ。
我ながら怪しかったかと不安がよぎる。
それでも、駅員は納得したように頷いた。
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