第1章 逃避行

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スマホは家に置いてきた。 着信に怯えることもない。 電車の心地よい揺れに包まれながら、まどろみの中に意識をあずける。 __ちょっと、疲れちゃったな・・・ __少しだけ、休もう。 __そして元気になったら、また進めばいい・・・  私の錆びついた心は、全身を毒のように貫いた。  *** 「お客さん、お客さん、起きてください。終点です」 車掌の声で目を覚ました。 「あっ、すみませんっ」 軽く頭を下げて、慌てて電車から降りた。 他の乗客はとうに降りていたようでホームには誰もいない。 __ここはどこだろう・・・ 嗅ぎなれない匂いが立ち込める。 木々や土の匂いなのか、それとも違う何かなのか。 都会には存在しない匂いだ。 ホームの階段を降りると改札へ向かい、駅員へと尋ねた。 「あの、ここから東京とは逆の方向に行きたいのですが・・・」 曖昧な聞き方に、駅員が顔をしかめる。 「お客さん、目的地は?」 「えっと、私行き先を決めずに旅をしてるんです。だから、あの、目的とか・・・そういうのは特にないんですけど・・・」 旅と言い切った割には、荷物は小さなバックがひとつだけ。 我ながら怪しかったかと不安がよぎる。 それでも、駅員は納得したように頷いた。     
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