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序章
僕の通っている小学校への通学路には一本の大きな桜の木がある。地面をがっちりと掴むように張っていった桜の根は、アスファルトを盛り上げ、明らかに通行の邪魔であった。
「この桜の木、邪魔だよね。伐っちゃえばいいのに」
僕がそう口を尖らせると、涼ちゃんは声を落とした。
「お前知らないの?この桜の木は伐っちゃいけないんだよ。伐ろうとすると必ず何か良くないことが起こるんだ。──それだけじゃない。この桜が満開になって花が散り始める頃になると出るんだって」
「アメリカシロヒトリ……って言いたいンだろ」
「違うよ!出るっていったら決まってンだろ。アレだよアレ」
そう言って涼ちゃんは恨めしや~と白目をむいた。
「それも軍服を着た兵隊の幽霊だってさ。怖いよなあ」
涼ちゃんが首をすくめると「こらっ」と担任の小野先生が涼ちゃんの頭を小突いた。
「この桜の木はね。ただの木じゃないのよ。この桜の木には、ある人の大切な想いがこもっているの。先生がこの小学校の生徒だったときにね、校長先生から聞いた話──」
そう言って小野先生はこの桜の木にまつわる話を僕たちに話し始めた。
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