のっぺらぼうな二人

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のっぺらぼうな二人

のっぺらぼうな二人 ここに二人の若者がいる。 目鼻口がない黒髪の女子高生こと水平リーベ。 同じく男子高生の山梨平(やまなしたいら)。 彼らは人間離れした存在である。何しろ顔がないのだ。 生まれつきか後天的な事情かわからない。視聴覚が不自由なためコミュニケーションが困難だ。それでも高校に進学できたのだから日常生活は可能なのだろう。 呼吸や飲食はどうしているのだろうか、と不思議に思うかもしれない。 医学の発達によって彼らのような障害者も生きていける世の中になった。 具体的には気管切開や経管栄養という方法で互いに介助しあっている。 言葉を発せずとも盲目の愛を貫いているのだ。 支援学校の新学期。最初の席替えで二人は隣同士になった。 「挨拶をしましょう」 担任が生徒たちの掌に指で文字を書いて回る。みな、のっぺらぼうだ。 リーベは平の顔にそっと触れた。 「さわってもいいですか?」 ドキドキしながら人差し指でつづる。 平はそっと握ってくれた。 指を這わせる。 顔面は起伏に乏しいものの、がっしりとした頭蓋骨。 理想的な形でなかなかのイケメンだ。 しばらく指で愛撫していると平が指で言った。 「君の髪、さわってもいいかい?」 思わずビクッと身を引く。 リーベは正直言って気が進まなかった。いくら同じクラスだとはいえ、家族ではない男子に触られたくない。 それでもトラブルを起こして先生を困らせたくないので嫌々ながら応じた。 すると、平がこう言う。 「サラサラできれいだね」 かあっと体中が熱くなる。鼻と口がないので息が詰まりそうだ。 それで彼女はすぐのぼせてしまった。 ぐらりと上体が倒れる。 「水平さん、どうしたの?!」 耳は普通に聞こえるから担任の狼狽ぶりが見て取れる。 そこで平は機転を利かせた。 支えに回った担任の背中に指を触れる。 そして、でっかいハートマークを描いた。 「あらあらあら、いやだ、まぁ!」 担任は状況を察してリーベから離れた。 しかし、すぐに態度を改めた。そして、バシッと平を叩いた。 「今は授業中ですよ!」
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