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あまりに現実離れした治療法に、雄平の放射されていた自我が収束して来た。
絶望のハンマーに砕かれていた物が、希望というボンドで寄せ集めたものだが、雄平に状況に客観視するだけの余裕を生んでいた。
「本当に、莉奈は治るんだな?」
「しつこいなぁー。治るよ。っていうか今の時代、癌ぐらいで死ぬ人なんて居ないよ」
「じゃあ、何で死ぬんだ」
「生活習慣病に決まってるじゃん。死亡原因ダントツナンバーワン」
もちろん、雄平にはギャグなのかを判断する材料も理由も無かった。
「まず、お前が未来人だという証拠は?」
「この時代、重力制御装置無いよね」
「この部屋に入って来たのが証明ってことか」
「じゃなくて、今」
云われて視線を振れば、マリアの足は地面に付いていない。
落ち着いている様子とは裏腹に浮足立っている。意味が違うが、雄平の中ではそんな言葉が浮かぶほど、平然と浮いている。
「必要なら、幻覚投影装置か成長促進装置で私がボンキュッボンに変身とかもできるけど」
「どちらかというと、平成でも死語なボンキュッボンが何万年も未来に残ってることの方が驚いてる」
「そうなの? 古代語……っていうか、平成における現代語の翻訳装置に入ってるんだけど」
「入力したヤツはどんな奴なんだ?」
「南東北大学の西教授って人」
嘘臭さと突拍子の無さが、一周して現実味を帯びた。
というより、これが嘘だとすると莉奈の完治も虚ろいでしまう。疑うという発想自体が、最初から雄平は振り払わなければ、自我が解けてしまいそうだった。
「俺は何を払えば良いんだ? 代償は?」
「髪の毛一本」
「……え?」
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