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 声を荒げながら腕を振るう雄平に、マリアは腰から肩までを蛇のようにくねらせながら、ニィと笑った。  ちょうど表情も、蛇のようだ。 「一応、平成の契約のルールでは、異議の申し立てはできるんですけどね。  今、私は訪問販売と同じだから、この時代、この国の法律では解約はできます。クーリングオフですね」 「冷静(クーリング)解約(オフ)、正に今の俺のことだな。だったら……!」 「でも、しないでしょ? クーリングオフ。するなら……ワクチンも引き上げるから」 「……んなっ!?」 「当たり前でしょ? 契約が解約したら、原状回復……この場合、奥さんの末期癌の状態に戻して撤収よ」  雄平の時間がひどく遅くなった。マリアの言葉を待ってしまっているが、喋ることなどもう有りはしない。  有るのは雄平の決断だけだ。  たったひとりの女のために、数多くの惑星単位での無辜の民を皆殺しにする兵器を造らせるか。  未来なんてあやふやな非現実を忘れ、最愛で唯一の妻との人生を構築するか。 「選択肢なんてないよね。  あなたは奥さんを救って、私たちの歴史では存在しなかったお子さんたちと、仲良く暮らせる」 「そ、れ、は……」 「ダメだよ……雄平……ッ!」  聞き間違えるはずもない、幻聴でもない。  雄平の一番好きな声。ずっと聞きたかった声、だが、今だけは聞きたくなかった声。  意識が無かったはずの愛妻、莉奈その人。枕に沈んだ頭から瞳と意思をしっかりと向けていた。 「間違えないで雄平。  私は死ぬはずの人……でも、未来の人たちは……死ななくて良い人。  私を助けるために、死ななくて良い人たちが死ぬなんて、絶対に……ダメだよ」
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