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謝らなければならないことを彼女が何かしたと云うのか。
外来種であろうと在来種だろうと、何か滅びなければならない理由があるのか。
どんな理由があれば、若い身空での死を強いられなければならないのか? 贖う時間すら無いのか?
もしも、彼女がいかなる罪を犯していようとも、彼が知らないところで外道の所業をしていたとしても、彼はこの現実を噛みしめ味わうことなどできるわけがない。
「プレゼントですか?」
「なんでも良いよ、ついでだから」
彼こと芦橋雄平と、松風莉奈の出会いは、彼女がアルバイトしていた花屋の店先でのとある昼下がりだった。
足の踏み場のないような狭い店の中、自分を見ろと引け目もなく花々が輝いている店。彼女はそんな傲慢な花たちに飽きれもせず、枯れた葉を取り、じょうろを傾ける。
賢そうには見えなかったが、漠然と柔らかそうな印象を受ける。花と似ていた。
彼がこの店に寄ったことに大した理由は無かった。ただの恋人への贈り物。
古臭い言い方をすれば許嫁、新しい言い方をすれば政略結婚、それらしい言い方をすれば、親の敷いたレール。
自分で作った空き時間、雄平は強いられるように立ち寄った花屋でプレゼントを買いに来た。
プレゼントを選ぶのではない、買いに来たのである。子供の御遣いと大して変わらない使命感の伴わない使命。
「それなら、好きな花とかありますか?」
「知らないよ、何回も会ったことのない女だから」
「好きなお花は?」
「だから知らないって……」
「あなたのお好きな花です。あなたがキレイだと思うお花を貰うのが、私だったら一番嬉しいです」
雄平に初めて、花が香った。
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