0人が本棚に入れています
本棚に追加
そして莉奈を待合室に招き、雄平と医者は交互に、莉奈に病状を伝えた。
「前はよく有ったの、こういうこと」
「莉奈……!?」
「小学生の頃だと思うんだけど世話をしてたお花。
秋には萎びてきちゃって、頑張って世話をしたんだけど、冬には枯れちゃった。
なんで、って思ったんだけど、一年草……一年したら枯れちゃう花だったの。
多年草じゃなかったから仕方ないって云われて……ショックだったなぁ……」
暖房も空気清浄機も入っているはずなのに、雄平の目頭が熱を帯びた。
熱を帯びた氷山が腰の辺りから背筋に触れ、脳の奥に触れているようだった。吐き気が、した。
「私……一年草だったんだね……ビックリした」
莉奈の頬を伝った涙を、雄平のシャツが胸で拭う。
彼女の後頭部に抱きしめたまま、雄平は吼えた。最初から涙などで足りるわけが無い。
雄平の怒りも悲しみも無念も、何一つ、涙なんぞで表せる質量の感情ではなかったのだ。
「最後まで……枯れるまで、一緒に居させてくれ……莉奈、結婚しよう」
「……良いの? 私で? 長持ちしないよ?」
「お前じゃなきゃ駄目なんだ、俺は、お前が居ないと……!」
枯れてしまうことが分かっても、離れることなんてできるわけがない。
葉が茶色になり、花弁がしなびても、尚のこと愛しさだけが雄平の中に募った。
ふたりで病院に通い、体調の良い日は外に出た。
雄平は仕事を辞めた。父親の系列企業だったので居心地も悪かったと笑ったが、莉奈は目も合わせず、カーディガンの長すぎる袖を伸ばしたり折ったりしていた。
気まずいこともあった。だが、それでも互いにとって枯れるときまでそばに居ることが、最後の花見にとっての要綱であることは共通していた。
花見は、花を見て、花に見られて。充実した日々は、一日ごとが輝いて、輝いているからこそ、光の速度で過ぎ去った。
最初のコメントを投稿しよう!