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「私はマリア。マリア・フェレス。あなたから見ると未来人ね。  あなたと取引しに来たの。何千年も未来から」 「出ていけ。俺にはお前と会話する時間は無い。俺の時間は全て莉奈の物だ」  今、ミサイルが落ちてきても、伝染病が発生しても変わらない事実。  未来人が現れたくらいで、どうにかなる雄平ではない、だが。 「……あー……じゃあ、率直に云うね。奥さん、助けたくない?」 「……え?」 「この時代、癌細胞についてスゴイ勘違いをしてるの。  もっと大昔で地球が平たいと思っていたように、ウイルスは呪いや悪霊の仕業と思っていたように、雷を神の怒りと思っていたように。  現代科学っていうのは、必ず未来科学からすると失笑ものの誤謬(ごびゅう)があるの。  それが癌細胞の勘違い。この時代では癌細胞は健康な細胞が癌化することで起きるとしているけど、  そもそも、どうして自ら死ぬ必要があるの? 他の死因はあえて死ぬことで種全体の間引きとして必要だから起きるけど、癌っておかしいでしょ?  種全体としても長命になったのは最近で、他の死因でも充分死ぬのに、なんでわざわざ自死するための機能を進化させる必要があるの?  それはね、実は癌細胞は……」 「そんなことはどうだっていい! 妻は……莉奈は、治るのか!?」  いつの間にか、というか、最初から彼女の手に握られていたカプセル。  ガラスとペットボトルの間のような質感の、鈍い光を放つそれの中にはグレープのグミをすり潰したような奇天烈な顆粒がみっちりと詰まっていた。 「癌の特効薬だけど、話をする気になった?」 「質問に答えろ! 妻は治せるのか!」 「答えたつもりだけど?  胃癌でも肺癌でも子宮頸癌でも、心臓癌でも大脳癌でも、なんでも治せるよ。  もちろん膵臓癌も例外じゃなく治るよ。  ついでに、ここまでした旧時代的な放射線治療や薬学投与の副作用も治癒できるように配合済み」  車の無い時代の人間は車が無くて馬車は不便だとは思わないだろう。  携帯電話の無い時代の人間は、当然のように公衆電話に並んだだろう。
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