第1章

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 ようやく慣れて走りが安定してきたところで、目の前に白い塊が飛び出してきた。ウサギである。綾はそれを蹴り飛ばさないように慌てて足をとめた。ウサギは綾の前から動かずじっと彼女を見上げている。ウサギはその場から動かず、彼女とにらみ合いを続けた。間を置かず仲間の白ウサギがもう2匹現れ、にらみ合い加わった。  おしゃべりな豚はだめでも、目障りなウサギなら食べても差し支えないのでは、綾の心の声が告げた。この前ソテーにしたウサギはよい物だった。綾の思いが伝わったのかウサギたちはそそくさをその場を立ち去った。  薄暗い雑木林を抜け、陽光が降り注ぐ草地へ目の前の低い丘を越えればシェリーのいういつもの場所である。今は緑の草原だが、秋になれば全面金色となる。その時に青いワンピースを着て草地に立てば有名なファンタジーアニメの1シーンを再現できそうだ。  丘を越えると島の南端、2時間サスペンスドラマのファンが喜びそうな断崖絶壁で今にも船越栄一郎が飛び出してきそうな雰囲気がある。  断崖のそばに佇むシェリーの姿は見えたが他の人物の姿はまだない。黒いコルセットドレス姿で白いブラウスと相まって巨大な胸が目立つ卑怯極まりない服装である。  綾は息を整えつつ、シェリーの元へと向かっていった。しかし、いつでも走り出せる用意は怠らない。前回油断して草むらに潜んでいた配達員に先を越され勝利を逃してしまった。  目の前のシェリーは満面の笑みを浮かべている。何かがおかしい。綾はポケットの中の財布を握り締めた。  次の瞬間、黒い塊が突風と共に断崖の向こう側から舞い上がってきた。それはUH-60戦術輸送ヘリコプターブラックホーク。屋敷が島にあるためヘリコプターで乗り付ける客は珍しくないのだが、このアクション映画さながらの登場に、綾はあっけにとられ身動きすることができなくなってしまった。そうしているうちにヘリコプターの乗降口の扉が開け放たれ乗員の1人が荷物を手に飛び出してきた。発泡スチロールの箱と赤と白の紙包みを抱えた配達員がシェリーに向かって駆け出してくる。  ようやく我に返った綾も財布を手に走り出す。しかし、シェリーとの距離はまだ遠く手渡しでは間に合いそうにない。荷物が手渡された時シェリーが財布を持っていなければこのゲームは綾の負けとなる。覚悟を決めた綾はシェリーに向かって渾身の力を込めて財布を投げつけた。
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