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「…あら」
「…あ」
ショッピングモールの大型画材店から出てきた俺は、彼女の買い物に居合わせた。
偶然だ、断じて偶然だ。そうでないなら俺は神様を殴る。
「秋草先生じゃないですか、お疲れ様です」
「…仕事な訳では無いけど」
「あ、ごめんなさい。お仕事相手ですからつい」
彼女の私服は初めて見る。昔は塾に行く時さえ制服を着るような、服装に頓着しない人だった。
今は、淡い花柄のインナーにフレアスカートを合わせ、薄手の黒いジャケットで全体を甘くなりすぎないよう引き締めている。踵の高いパンプスが彼女をより大人っぽく見せていた。
「では、ここで会えたのだしお仕事しましょうか」
「…仕事?」
「はい。そこで」
彼女が指差したのはフルーツを使ったメニューで有名な小洒落た店だ。
「お仕事相手のことを知るのも大切なことでしょう?」
ニヤリと意地悪げな笑顔をして、俺の返事を待っている。
…畜生。
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