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「……で、せっかく表紙絵を決めようって時にどうして絵師の方がそんな生気のない顔をされてるんですか」
俺の担当は、表紙含め四枚に決まっている。第一印象の表紙絵さえ決まれば、あとは好きなように描いてくれて構わないと碧馬に言われていた。
「まーこいつは元々ハツラツとした面ではないけどねー」
「秋草先生ー?生きてますかー」
「…死んでるように見えるのか」
「あ、生きてますね。それでこのラフのイメージを具体的に教えて頂きたいんですけど」
初めての打ち合わせで、「私は作者様が望んだ形そのままに、本を売り出したいと考えております。意思疎通のため質問責めは覚悟してください」と彼女は言った。
それはいい、いいのだが…碧馬と俺で、扱いの丁重さに差があるというか、俺の方が些か尋問じみていると思うのは気のせいだろうか。
「…言うまでもないと思うけど…庇うようにして立ってるのがヒロで、同じ方向に杖をかざしてるのがユウだ」
ゲーム脚本をやりたい碧馬らしく、ノベルの内容は異世界転生する冒険譚だ。
見た目が中性的で卑屈っぽい平凡なヒロと、時には杖で敵を殴りに行く逞しさを持つウィザードのユウ。
「初めイケメンにしようと思ったけど、ヒロは少し怖がってるくらいの顔にしたい。ユウは牙を剥く位の威勢で」
「確かに個性がわかりやすい方がいいよな」
「背景はボス戦にしようかと思ったけど、ネタバレになるか?」
「流石にラスボスはなー、場所くらいなら」
「じゃあその線でいく」
「わかりました。ではコピー頂きますね」
テキパキと書類を片付けていく彼女に、ふと碧馬が声をかけた。
「…深津さんってさ」
「はい?」
「ユウみたいだよね」
「うーん?そうなんですかね」
言われてみれば、わからんくもないと思った。
ユウは容姿端麗で純粋な心を持った少女で、誰よりも正義感が強く「勇者」と比喩される。品行方正ながら思い切った行動が多いのも特徴だ。
「でも私で似ていると言うのなら、ヒロは秋草先生だと思いますよ」
「…えぇ?」
正直あまり嬉しくはない。ヒロにはマイナス要素が多い。
「ははっそれ褒めてる?」
「褒めるつもりで言ったのではないです。でも私は嫌いではないですよ?」
なら何のつもりで言ったのだ。
モヤモヤしたまま、俺はコーヒーを啜った。
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