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「好きです、付き合って下さい!」
教室の壁一枚隔てられた廊下で、私はその声に思わず隠れるようにしゃがみ込んだ。この声は、佐藤さんだ。私と同じように、須田くんのことが好きだって聞いたことがある。でも全然私より話してないし仲良さそうでもなくて。ライバルだと思ってもいなかった。当然、フラれるでしょ。そう余裕をこいていた私の耳に届いたのは、照れたように笑ってお願いします、と返す須田くんの声だった。
…………え?嘘。どうして、何で?
ガツンと殴られたような衝撃。突然のことに頭が真っ白になる。喜んでいる佐藤さんの声と、僅かな衣擦れの音が何処か遠くの方で反響していた。嘘、うそ、待って。待ってよ。私の方が好きなの、ずっと好きだったの。暴れだす心とは裏腹に私の足は一歩も動かなかった。意気地なし!何もなくても告白できなかった私が、飛び出していけるはずもない。
ぽろ、ぽろっと抱え込む膝に涙が落ちた。泣きたくないのに、止まらない。ほのかな恋が終わるには余りにも唐突過ぎて、心の準備が出来ていなかった。幸せそうな二人に聞こえないように嗚咽を噛み殺していれば、不意に二人の声が近づいた。まずい、バレちゃう!会話を終えた二人が教室の扉に近づいて、しゃがみこんでいた私は逃げるように駆け出す。駄目だ、見られちゃう、間に合わない。絶望する私を置いて、無情にもガラリと扉を開ける音が響いた。
聞こえた声は、想像とは全く違う声音だった。
「須田、先生が呼んでる」
私は思わず振り返ってしまった。ぽかんと口を開けて声がした方を見つめる。扉に手をかけて、中から見えないようにしているのは同じクラスの三谷くんだった。驚いたまま目が合えば、一度だけ私のほうを見て軽く頷く。意図を察して、私はまた思い切り駆け出した。もしかして、助けてくれたの?無我夢中で私はその戦場から逃げ出した。
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