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しかし、それでも妙だ。在校生は自宅学習のはず。この学校にいる生徒は新入生か生徒会か、今演奏している吹奏楽部くらいなものだ。この人は、その中のどれだろう。
そんなことを思案している間にも、男子生徒は私に傘を差しだしているせいで、雨に打たれ続けている。このままだと本当に風邪を引かせてしまう。すでにびしょびしょになってしまったハンカチで目をこすり、無理やり笑顔を作って傘を押し戻す。
「私は雨に打たれるのが趣味なんです。だから傘はいりません」
「俺は人に傘をさすのが趣味なんです。だから傘にお入り」
傘の押し付け合いが始まった。しかし男子の力にかなうはずもなく、半ば無理やり傘をさす羽目となった。それでもなんだか居心地が悪くて、ふたりの真ん中に傘を掲げるようにした。私と彼、半分ずつ濡れている。
「ねえ、こんな時間にここにいるなんて、どうして? 新入生だったら早く体育館行かなきゃ。在校生ならどんまい。登校日間違えたんだね。家にお帰り」
初対面なのにずかずかと聞いてくる厚かましさに驚きながらも、彼の八重歯のある口元と雨に濡れた黒髪のせいで、自宅で飼っている黒猫の姿と重なり、つい親近感を覚えて私も口を開く。
「そういうあなたはなに?」
人に名前を聞くのなら、まず自分から名乗る。
一般的な常識としてそう言われているように、人に理由を尋ねるのならまずは自分からでしょう。
ふふん、と形勢逆転したような気になって鼻で笑ってみるけれど、彼はどうってことのないような顔をした。
「俺は新入生だよ。入学式はサボってる」
「……は?」
「君も俺と同じ?」
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