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ちょっと意味がわからなかった。新入生が入学式に出ないで、雨の中校舎裏にいる。そんなバカみたいな奴は私くらいしかいないものだと思っていたから。
「……どうして?」
「だって、雨の中傘さしてない女の子がいたから。しかも泣いてるっぽかったし」
「は……?」
「俺さ、入学式なのに遅刻しちゃって。今からでも間に合うかなーって思って体育館にダッシュしてたんだ。そんなときに君を見つけた。やっぱ、入学式より雨に打たれてる女の子のほうが大事じゃん」
「……いや、あの、バカじゃないの?」
「だから言ったでしょ。『俺は人に傘をさすのが趣味』だって」
「……」
開いた口が塞がらなかった。彼の左胸に『祝入学』と書かれた花がついていなかったので、新入生だとは思わなかったから、この回答は予想していなかった。遅刻で、しかも入園式をほうっておいて趣味(?)を優先させるなんて。頭のネジが数本とんでるとしか思えない。
「俺のことすっげーバカだと思ってるでしょ。でも俺からしたら君もけっこうやばいよ? 入学式で雨の中、目を腫らすほど泣いてるなんて」
「……」
「やばいもの同士、ここで入学式でもしちゃう?」
「……いい」
「は?」
「……だって、私が行きたかった学校は、ここじゃないもの」
受験に失敗した。第一志望に落ちて、滑り止めだったこの高校に入学したのだ。友達も知り合いもいない、魅力的な校風もない。家からも遠い、何ひとつ愛着のない高校にこれから通わないといけない。
それがあまりにも受け入れがたかった。入学式に出ることで、後戻りができなくなってしまうような気がしたのだ。もうとっくに、引き帰すことなんてできないくせに。
「なんだ。俺と一緒じゃん」
「……え?」
男子生徒は八重歯をのぞかせて猫みたいに笑った。ざわざわしていた気持ちが少しだけ落ち着く。
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