2人が本棚に入れています
本棚に追加
「俺も受験失敗組。当日お腹壊してさー、試験どころじゃなかったわ。1か月前の俺に言いたいよね、『その牡蠣は食べるな、罠だ!』って」
「……ふ、なにそれ」
「すっげー泣いたし、昨日も入学式行きたくなくて友達とオールしてたし。ぶっちゃけそのせいで遅刻したんだけどね」
「……」
さっきまで『冷たい』、『痛い』と思っていた雨が、なぜだか心地よく感じてしまう。私の背中と、彼の背中を濡らす春の雨。『頑張れ』って、後押ししているように思える。
自然と私の口から言葉が降っていく。
「……私、志望校に合格するために、夜も寝ないで頑張ってた。成績も上位をキープしてたし、素行にも気をつけてた」
「うん」
「……でも何にも意味なかった。無駄だった。私、今まで何のために頑張ってたんだろうって、空しくなって……」
「うん」
「おまけにこの雨だよ。入学式っていう晴れの日に雨。桜も散っちゃってなんだか汚いし。もうほんと、私ってどこの学校にも歓迎されてないなー……って気分になって」
「……うん」
「どうしても入学式に出席する勇気が、でなかった」
私の言葉が雨だとしたら、彼はそれを受け止めてくれる水たまりのようだった。否定も肯定もしない小さな相づちが心地よくて、私はここにいてもいいんだって思わせてくれる。
最初のコメントを投稿しよう!