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『以上をもちまして、入学式を終了します』
体育館から放送が聴こえてきた。とうとう入学式が終わったらしい。
「じゃ、俺らもここで入学式しよ」
「……は?」
「ほら、雨も止んだし」
空を見上げれば、雨雲の切れ間から光がさしていた。4月の気まぐれな雨は、もうどこかへ行ってしまったらしい。
「……でも、寒い」
「確かに。俺らびしょ濡れじゃん」
お互いに背中側がびしょ濡れで、おろしたての制服が台無しだ。こんな大切な日に、こんな格好をしているのは、どこを探しても私たちくらいだろう。なんだかおかしくなって、笑えてくる。
「まあ、こんだけ悲惨なスタート切ったら、あとは上がるだけだって!」
「……そうだね。ふふふ」
「くくくく」
「「あははははは」」
ずぶ濡れで笑う奇妙な新入生ふたり組。それがまたおかしくて、笑い声に拍車をかける。
たしかにこれから楽しいことが待っていそうな気がした。
この人と、一緒なら。
「じゃ、えっと。入学おめでとう。君の名前は?」
「入学おめでとう。そっちこそ、あなたの名前は?」
人に名前を聞くのなら、まず自分から名乗る。
「あ、そうだった」
――またふたり、顔を見合わせて笑った。
「……そういえば、入学祝いでつける花はどうしたの? 俺は遅刻したからもらえなかったけど」
「ああ、外してた」
「つけてやろーか?」
「……んー」
『祝入学』と書かれた札に添えられた、花のブローチ。もらってすぐ外したから、今ごろスカートのポケットの中でぐちゃぐちゃになっているだろう。
少し考えた後、ちょっと気取った顔をして口を開いた。
「いや、いい。花は、私が咲かせるから」
私のくさいセリフを聞いた彼は目を丸くして、つぼみが綻ぶように笑った。
「じゃ、俺も」
雨上がり。ふたりだけの入学式を終わらせた。
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