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1.桐谷浩二
「先生……ありがとうございます……」
「………いえ」
時刻は午前2時。東京都の武蔵野市にある手塚総合病院のとある1室で、交通事故により、
首から下が動かなくなってしまった患者の涼子と、その主治医である桐谷浩二が会話をしていた。
しかし双方に笑顔はない。浩二が涼子に語り掛ける。
「……本当によろしいのですね?」
「……ええ…私には身寄りもないし……悲しむ人もいませんから……」
「………分かりました」
浩二はそう言うと、得体の知れない薬の入った注射器を取り出し、それを涼子の左腕に注射する。
「………これで…ようやく楽になれる……」
「痛みは伴いません…段々と睡魔が襲っていき、そしてそのまま…息を引き取ります…」
「ありがとう……ございます……先……生……」
涼子は浩二に礼を言うと、ゆっくりと瞼を閉じた。
「来世では幸せになることを……願っています……」
そういうと浩二は、病室を後にした。
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