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side 悠
オススメだというナポリタンは本当に美味しくて、秋山くんとの会話も弾んでいた。
話してみると意外と気が合うことも分かった。
クールに見えるくせに、いちいち謝ってはワタワタしてる。
大の男に言うセリフじゃないけど『可愛い奴』って思う。
…なんてことを考えていた数分前の自分が甘かった。
…チュッ
指先に小さなリップ音。
ケチャップを拭っていた手を向かい側から掴まれ、どうしたのかと問う前に親指を舐められた。
びっくりして固まっている間に指の腹に吸い付かれる。
「…甘い。」
「…!!」
小さな声で呟かれた言葉にハッとして、慌てて手を引っ込める。
「な、何だよ、いきなり!」
真っ赤になりながら抗議すると、妙に艶っぽく笑う秋山くん。
「何って…指舐めただけだろ?」
全く悪びれていない態度に頭がついていかない。
「舐めただけじゃないだろ!キスした!」
「気にするとこそこなんだ?」
…ダメだ、ちょっと頭冷やさないと…
冷静に冷静に…
「俺、男なんだけど。」
「見たら分かるよ。」
可笑しそうにクスッと笑う秋山くん。
…?
なんだろう…何か違う。
「ホントはさ。」
舐められた左手をまた掴まれグッと引かれる。
つられて体も前のめりになり、近づいた耳元に甘い声が囁く。
「指じゃないとこにもキスしたい。」
「!?」
言われたセリフに頭が真っ白になる。
と同時に真っ赤になった顔にさらにカァーッと血が集まるのが分かった。
「真っ赤。」
からかうような声にムカッとし反射的に睨み付ける。
「秋山くん、からかうな。」
「からかってなんかないよ。それと、」
ゆっくりと俺の手を離すと椅子に寄り掛かりながら秋山くんは続ける。
「蒼牙」
「は?」
「名前。『秋山くん』じゃなくて『蒼牙』」
「……」
誰だ?この目の前いるのは。
さっきまでの可愛い秋山くんはどこにいった?
「早く呼ばないとここでキスするよ?俺はそれでもいいけど。」
「!?」
そう言ってまた身を起こす秋山くんにビクッとして、慌てて名前を呼ぶ。
「そ、蒼牙!」
「…うん。いいね。」
ニッコリ。
本当に嬉しそうに笑う秋山くんにドキッと胸が鳴る。
うん、とにかく落ち着こう俺。
とりあえずコーヒーに手を伸ばしたその時。
「すみません!」
もう何度目か分からない謝罪が聞こえた。
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