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side 悠
目の前で一生懸命に謝る秋山くんにちょっとホッとする。
さっきのはからかってきただけだろう。
だって今そこにいるのは、犬みたいな秋山くんなのだから。
…耳がシュンと垂れて見える。
つい笑みがもれてしまい、それに気付いた秋山くんが恐々と聞いてくる。
「怒ってないですか?」
「うん?怒ってないよ?びっくりしただけ。」
「…良かった。」
明らかにホッとした様子に、さっきとは違うホンワカとした気持ちが胸にわく。
「でも、さっきのは何だったの?急にからかってきて。」
素直に疑問を投げ掛ければ困惑した顔で見つめ返される。
いや、困惑してるのはこっちだからね?
「…俺、からかってなんかないって言いました。」
「え?」
「さっき言ったこと、したこと、悠さんをからかったわけじゃないです。」
「………」
言葉が出ない。
…え、じゃあ何だ?
本気だったってこと?
『キスしたい』
あの言葉も?
「俺、悠さんが…」
「ちょっとストップ!」
秋山くんの言葉を遮って頭を抱えた。
頭を整理しよう。
うん。ナポリタン美味かったな…あ、コーヒーを奢ってもらうはずが、晩飯まで食ってる…いや、そうじゃなくて…
ダメだ、やっぱり分からない。
「悠さん?」
俺が頭を抱えてウンウンと唸っているのを心配したのか、下から覗き込むよう見てくる秋山くん。
クソ!そんな表情もカッコいいとか何だよ!
「からかったわけじゃないんだな?」
「はい。」
速攻返事をするその目は真剣で…
その言葉を受け入れるしかないじゃないか。
「…もう一つ聞いて良いか?」
「はい。」
「さっきの君と、今の君。どっちが本当の君?」
俺の質問に、彼が息を飲むのが分かった。
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